有料職業紹介事業者にとって、雇用関係助成金の取扱いは、クライアント企業への付加価値提供と求職者の就職率向上の両方を実現する強力なツールとなり得ます。
本記事では、数ある助成金の中でも特に活用頻度の高い「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」について、助成金取扱事業者が必ず押さえておくべき5つの基本ポイントを、実務上の注意点も交えながら分かりやすく解説します。
この助成金は、高齢者(60歳以上)や障害者など、特に就職が困難な方々をハローワークまたは民間の職業紹介事業者の紹介により、継続して雇用する事業主に対して支給される制度です。
就職困難者の方々の雇用機会を増やし、安定した雇用を確保することにあります。
紹介会社としては、この制度を深く理解し活用することで、以下のことが実現できます。
助成金の対象となるのは、以下のいずれかに該当する求職者(対象労働者)です。
💡 原則: 雇入れ日時点で満65歳未満である必要があります。ただし、「60歳以上の者」については65歳以上でも対象となる特例があります。
高齢者
障害者
家庭環境などに関する方
その他
特に、「重度障害者等」(重度身体障害者、45歳以上の身体障害者、重度知的障害者、45歳以上の知的障害者、精神障害者)を雇い入れる場合は助成額が手厚くなります。
また、重度障害者等を週の所定労働時間30時間以上で雇い入れる場合に限り、紹介時点でその方が他の企業に在職中であっても対象となります。
この特例により:
助成金を受給するためには、紹介先の事業主も一定の要件を満たす必要があります。
紹介会社としては、特に不支給となるケースを事前に把握し、クライアントに的確な情報提供を行うことが信頼に繋がります。
⚠️ 重要: クライアント企業に無用な期待をさせたり、後々のトラブルを避けたりするためにも、以下の不支給要件は「紹介前の必須スクリーニング項目」として必ず確認しましょう。
❌ 紹介前の接触はNG
ハローワーク等の紹介を受ける前から、事業主と対象労働者の間で採用選考が開始されていた場合は対象外です。
❌ 過去の雇用関係はNG
雇入れ日の前日から過去3年以内に、雇い入れる事業主と雇用、請負、委任、出向、派遣などの関係にあった場合は対象外です。
❌ 長期間の訓練・実習はNG
雇入れ日の前日から過去3年以内に、雇い入れる事業所で通算3か月を超えて訓練・実習等を受講したことがある場合は対象外です。
❌ 親族の雇用はNG
対象労働者が事業主や取締役の3親等以内の親族である場合は対象外です。
❌ 紹介時と条件が異なる場合
紹介時の労働条件と異なる条件で雇い入れ、労働者に不利益があり、本人から申し出があった場合は対象外です。
支給額は、以下の要素によって変動します:
💡 短時間労働者とは: 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の方を指します。
| 対象労働者の類型 | 企業規模 | 助成対象期間 | 支給総額 | 支給対象期ごとの支給額 |
|---|---|---|---|---|
| 【短時間労働者以外】 | ||||
| ① 高年齢者(60歳以上)、母子家庭の母等 | 中小企業 | 1年 | 60万円 | 30万円 × 2期 |
| 中小企業以外 | 〔1年〕 | 〔50万円〕 | 〔25万円 × 2期〕 | |
| ② 重度障害者等を除く身体・知的障害者 | 中小企業 | 2年 | 120万円 | 30万円 × 4期 |
| 中小企業以外 | 〔1年〕 | 〔50万円〕 | 〔25万円 × 2期〕 | |
| ③ 重度障害者等 | 中小企業 | 3年 | 240万円 | 40万円 × 6期 |
| 中小企業以外 | 〔1年6か月〕 | 〔100万円〕 | 〔33万円×2期、34万円×1期〕 | |
| 【短時間労働者】 | ||||
| ④ 高年齢者(60歳以上)、母子家庭の母等 | 中小企業 | 1年 | 40万円 | 20万円 × 2期 |
| 中小企業以外 | 〔1年〕 | 〔30万円〕 | 〔15万円 × 2期〕 | |
| ⑤ 重度障害者等を含む身体・知的・精神障害者 | 中小企業 | 2年 | 80万円 | 20万円 × 4期 |
| 中小企業以外 | 〔1年〕 | 〔30万円〕 | 〔15万円 × 2期〕 |
注意事項:
有料職業紹介会社がこの助成金を取り扱うための具体的な手続きの流れは、実務上の最重要ポイントです。
雇用関係助成金を取り扱うには、まず主たる事業所の所在地を管轄する労働局(事業主管轄労働局)に「雇用関係助成金の取扱いに係る同意書」を提出する必要があります。
同意が認められると:
助成金の対象となるのは、取扱事業者として認められた紹介会社からの正式な「職業紹介」による雇入れのみです。
以下は助成対象外となります:
これはキホン3で解説した不支給要件「紹介前の接触はNG」に直結する最重要ポイントです。
採用決定後の形式的な紹介は、不正受給とみなされるリスクも伴うため、厳格なプロセス管理を徹底しましょう。
クライアント企業が紹介した候補者を採用した後、紹介会社は以下の2つの手続きを速やかに行う必要があります。
1. 雇入登録届の提出
2. 職業紹介証明書の発行
全体の流れを把握するため、事業主側の手続きも理解しておきましょう。
事業主は6か月ごとの支給対象期が終了するたびに、その末日の翌日から2か月以内に管轄の労働局へ支給申請を行います。
申請時の必要書類:
A: 試用期間があること自体で直ちに助成対象外とはなりません。ただし、第1期の支給申請時点で試用期間が継続している場合や、試用期間と本採用で雇用契約が分かれている場合は対象外となります。
A: 有期雇用契約の場合、「本人が望む限り更新できる」といった自動更新の定めがある契約のみが対象となります。この旨が雇用契約書に明確に記載されている必要があります。勤務成績などに応じて更新を判断する契約は対象外となるため、契約書の内容確認が重要です。
A: 実際の労働時間が所定労働時間より短くなった場合でも、助成金が支給される可能性はあります。ただし、支給額は減額調整されます。支給対象期間内の月ごとの平均実労働時間に応じて支給額が算定される仕組みです。
今回解説した5つの基本ポイントを理解することで、有料職業紹介会社は「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」を効果的に活用できます。
クライアント企業へ
求職者へ
社会へ
助成金取扱事業者になるための詳細な手続きについては、グランアシスト社会保険労務士事務所へお問い合わせの上、ぜひ第一歩を踏み出してください。
特定求職者雇用開発助成金の特別解説書を配布中!
こちらからお申込みください。